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統計的仮説検定をていねいに解説する

1. 推測統計学の概念・用語

仮説検定は、推測統計学の1分野です。そこで、仮説検定の説明に入る前に、まず推測統計学に関する概念や用語のかんたんな定義を述べます。

1.1. 推測統計学とそのモチベーション

 推測統計学は、記述統計学を発展させた統計学の体系で、現代的な統計学の基本です。推測統計学の土台には、大数の法則中心極限定理があり、これらの定理によって分布の収束や近似といった極限的なふるまいの解析学的な扱いが可能になります。

 記述統計学のモチベーションは、「観察や調査によって集められた大量のデータそのものを目的に応じて整理・要約する」というものですが、推測統計学では「データの発生元である母集団に確率モデルを想定し、データを標本として捉えることで、データ自身ではなくデータを発生させている根源的な事象に対して推論を行う」という、より貪欲なモチベーションを置いています。

1.2. 概念・用語の定義

 手元にあるデータに対して、「母集団と標本」という "枠組み"(frame work)を与えることで、手元のデータと確率モデルを結びつけ、以降の議論を進めやすくします。

母集団と標本

  • 母集団(population)
    ー ある確率分布、確率モデルに従うであろう事象(event)の全集合*1

  • 標本(sample)
    ー 母集団の部分集合。母集団から抽出された確率変数(random variable)の組

  • データ(data)
    ー 標本の実現値(realized value*2

 さらに、母集団や標本をそのまま捉えようとするのではなく、母集団の性質を示す「母数」や標本の性質を示す「統計量」を考えることで、理論の厳密さを上げます。 (機械学習の文脈では、統計量のことを特徴量と呼ぶ。)

  • 母数(parameter)
    ー 母集団が持っている特性を示す数値
      確率変数に依存しない定数  \theta として定義される。*3

  • 統計量(statistics)
    ー 標本が持っている特性を示す数値
      標本についての関数  T(X_1, ... X_n) として定義される。統計量は確率変数。

次に、統計的推測をまとめ、推測統計学における「仮説検定」の位置付けをみてみましょう。統計的推測の手法には、目的に応じて「点推定」「区間推定」「仮説検定」「予測」などがあります。

統計的推測のまとめ:

  • 統計的推測(statistical inference)
    ー 標本  X_1, ... X_n に基づいて母集団(の確率分布や、確率モデル)に関する推論を行うこと。

    • 点推定(estimation)
      ー 母数  \theta の値を、標本  X_1, ... X_n に基づいて言い当てること

    • 区間推定(interval estimation)
      ー 母数  \theta が入っているような信頼性の高い区間を、標本  X_1, ... X_n に基づいて言い当てること

    • 仮説検定(hypothesis testing)
      ー 母集団に関する仮説(:母数  \theta や確率分布  f(\cdot~|~\theta) に対する記述)が正しいか否かを、標本  X_1, ... X_n に基づいて判定すること

    • 予測(prediction)
      ー 母集団に関する確率変数  X の新しい実現値  x を、標本  X_1, ... X_n に基づいて推測すること。

 このように、仮説検定とは、母集団の特性(値)を定量的に求めようとする「推定」や「予測」とは異なり、母集団の特性に対する仮説が正しいことを「支持する or 支持しない」の2者択一で判定するための方法論です。しかるに、有意水準  \alpha P 値といった指標は、この二者択一の判断に対して妥当性(信頼性)を保証するための数値でしかありません。

 どんな検定方式を使おうが、「仮説検定」の枠組みに入る統計手法である限り、データから得られる結果は、仮説を「支持する or 支持しない」のいずれかであることに注意してください。仮説検定では、判断結果(棄却or受容)に対する妥当性(信頼性)を見積もることができますが、データに対する仮説そのものの妥当性(信頼性)を見積もることはできません。

2. 統計的仮説検定

2.1. 母数と標本

 仮説検定で重要な概念となる「母数、母数空間」と「標本、標本空間」について、改めておさらいします。

母数空間  \Theta と標本空間  \mathcal{X}

  • 母数(parameter) \theta
    ー 母集団が持っている特性を示す数値.

  • 標本(sample) X
    ー 母集団の部分集合. 母集団から抽出された確率変数(random variable)の組.

  • 母数空間(parameter space) \Theta
    ー 母数  \theta のとり得る値の集合.

  • 標本空間(sample space) \mathcal{X}
    ー 標本  X のとり得る値の集合.

2.2. 仮説と検定

 ここまでで準備が整ったので、いよいよ統計的仮説検定について言及していきます。まずは仮説検定を「仮説」と「検定」に分けて、定義してみます。

仮説検定:

  • 仮説(hypothesis)
    ー 母集団に関する何らかの記述。母数  \theta が、母数空間  \Theta を分割する2つの排反する部分集合 \Theta_0,  \Theta_1 のどちらに属するかを記述する。

    • 帰無仮説(null hypothesis)     H_0 :  \theta \in \Theta_0 「母数  \theta \Theta_0に属する」

    • 対立仮説alternative hypothesis) H_1 :  \theta \in \Theta_1 「母数  \theta \Theta_1に属する」

  • 検定(testing)
    帰無仮説  H_0 が「真か偽か」の判定を、標本  X から求める検定統計量 T(X)で行う。

    • 受容(accept):「帰無仮説  H_0 が真である」と検定する。

    • 棄却reject) :「帰無仮説  H_0 が偽である」と検定する。

ここで注意すべきは、以下の点です。

  • 「仮説」は、母数空間  \Theta に対する記述。
  • 「検定」は、標本空間  \mathcal{X} に基づいて行われる。


 さて、次に問題となるのは、「母集団に関する何らかの記述が与えられたとき、それをどのように「真 / 偽」と判定するか?」、言い換えると「ある仮説が与えられたとき、それをどのように検定するのか?」です。このような「検定を実施する方法」のことを、検定方式と言います。

 ある仮説に対する統計的仮説検定そのものの「性質」は、検定を行う方式(=検定方式)によって決まります。1つの仮説(: 例えば「母集団の平均は1である」)に対して、「支持する or 支持しない」の判断を下す方法として、複数の検定方式が考えられます。


2.3. 有意水準  \alpha , P値

母数空間  \Theta において、母数  \theta \in \Theta に関する仮説の検定を考える。

A) 棄却域
帰無仮説  H_0 の棄却域  R は、標本  X \in  \mathcal{X} に関して定められ、 以下のように定義されます。

    R := {\large\{} {\it x} \in \mathcal{X} ~{\large |}~ \text{帰無仮説}~{H_0}~\text{が棄却されるための標本統計量}~T(X)~\text{の条件} {\large\}}

ここで、標本  X は「母数空間  \Theta に基づく確率分布に従う母集団」から抽出されたものだから、その確率は  P_{\theta} に従うため、「標本  X帰無仮説  H_0 の棄却域  R に属する確率」は、以下のように定義されます。

   標本  X帰無仮説  H_0 の棄却域  R に属する確率 =  P_{\theta} \left( X \in R \right)

確率 [tex: P{\theta} \left( X \in R \right)] によって、「帰無仮説  H_0 を棄却するか否か」を決定します。 このとき「帰無仮説  H_0 を棄却する」と判断する際の確率 [tex: P{\theta} \left( X \in R \right)] の最大値を「有意水準  \alpha 」と呼びます。

有意水準  \alpha の検定:

「標本  X に基づいて、帰無仮説  H_0 :  \theta \in \Theta_0 を棄却する」という判断が正しくない確率は、大きくても  \alpha 以下である。

  •  \underset{\theta \in \Theta_0}\sup P_{\theta} \left( X \in R \right) \leq \alpha
      

  •  H_0の棄却域  R := {\large\{} {\it x} \in \mathcal{X} ~{\large |}~帰無仮説~{H_0}~が棄却されるための標本統計量~T(X)~の条件{\large\}}

さらに標本  Xの棄却域 Rを書き下すと、

  •  \underset{\theta \in \Theta_0}\sup P_{\theta} \left( X \in {{\large\{} {\it x} \in \mathcal{X} ~{\large |}~ 帰無仮説~{H_0}~が棄却されるための標本統計量~T(X)~の条件 {\large\}}} \right) \leq \alpha

となる。

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3. 正規母集団についての仮説検定

3.1. 1標本の正規母集団

  X_1, \ldots, X_n ~~~ i.i.d. ~{\sim}~~ N( \mu,~{{\sigma}^2}) とする。
 また、標本をまとめて  \mathbf{X}~=~\left( X_1, \ldots, X_n \right) とおく。

  • 標本平均:  \overline{X}~=~{\large \frac{1}{n} } \sum_{i=1}^{n} X_i

  • 標本分散:  {V^{2}}~=~{\large \frac{1}{n-1} } \sum_{i=1}^{n} {\left( X_i - \overline{X} \right) }^2

 以下のように、母平均  \mu と母分散  {\sigma}^2 に関する仮説検定を考える。

1標本における, 母平均  \mu と母分散  {\sigma}^2 についての仮説検定

  (a) 母平均  \mu の両側検定 
                \begin{cases}
                    \text{帰無仮説} ~ H_0: \mu = \mu_0 \\
                    \text{対立仮説} ~ H_1: \mu \neq \mu_0
                \end{cases}

  (b) 母平均  \mu の片側検定 
                \begin{cases}
                    \text{帰無仮説} ~ H_0: \mu = \mu_0 \\
                    \text{対立仮説} ~ H_1: \mu > \mu_0
                \end{cases}

  (c) 母分散  {\sigma}^2 の両側検定 
                \begin{cases}
                    \text{帰無仮説} ~ H_0: {\sigma}^2 = {\sigma_0}^2 \\
                    \text{対立仮説} ~ H_1: {\sigma}^2 \neq {\sigma_0}^2
                \end{cases}

3.1.1. 母平均  \mu の検定(母分散  {\sigma}^{2} が既知)

    H_0: \mu = \mu_0 の下で、中心極限定理より、

       {\large \frac{\overline{X}~-~{\mu_0}}{ \sqrt{\frac{{\sigma}^{2}}{n}} } }~ \overset{d}{\longrightarrow} ~N(0, 1)

(a) 両側検定の帰無仮説  H_0: \mu = \mu_0有意水準  \alpha の棄却域

    R=\left\{ \mathbf{X}\in\mathcal{X} ~{\large |}~{\sqrt{n}}{\large \frac{ | \overline{X}~-~{\mu_0} | }{\sigma} } > {Z_{\frac{\alpha}{2}}} \right\}

(b) 片側検定の帰無仮説  H_0: \mu = \mu_0有意水準  \alpha の棄却域

    R=\left\{ \mathbf{X}\in\mathcal{X} ~{\large |}~{\sqrt{n}}{\large \frac{ \overline{X}~-~{\mu_0} }{\sigma} } > {Z_{\alpha}} \right\}

※ 母平均  \mu の信頼係数  1-\alpha の信頼区間

    C(\mathbf{X})=\left\{ \mu ~{\large |}~ {\overline{X}-{\large \frac{\sigma}{\sqrt{n}}}{Z_{\frac{\alpha}{2}}}} \leq ~ \mu ~ \leq {\overline{X}+{\large \frac{\sigma}{\sqrt{n}} } {Z_{\frac{\alpha}{2}}} } \right\}

3.1.2. 母平均  \mu の検定(母分散  {\sigma}^{2} が未知)

    H_0: \mu = \mu_0 の下で、

       {\large \frac{\overline{X}~-~{\mu_0}}{ \sqrt{\frac{{V}^{2}}{n}} } }~ {\longrightarrow} ~{t_{n-1}}

(a) 両側検定の帰無仮説  H_0: \mu = \mu_0有意水準  \alpha の棄却域

    R=\left\{ \mathbf{X}\in\mathcal{X} ~{\large |}~{\sqrt{n}}{\large \frac{ | \overline{X}~-~{\mu_0} | }{V} } > {t_{{n-1},~{\frac{\alpha}{2}}}} \right\}

(b) 片側検定の帰無仮説  H_0: \mu = \mu_0有意水準  \alpha の棄却域

    R=\left\{ \mathbf{X}\in\mathcal{X} ~{\large |}~{\sqrt{n}}{\large \frac{ \overline{X}~-~{\mu_0} }{V} } > {t_{{n-1},~{\alpha}}} \right\}

※ 母平均  \mu の信頼係数  1-\alpha の信頼区間

    C(\mathbf{X})=\left\{ \mu ~{\large |}~ {\overline{X}-{\large \frac{V}{\sqrt{n}}}{t_{{n-1},~{\frac{\alpha}{2}}}}} ~{\leq} ~ {\mu} ~ {\leq}~ {\overline{X}+{\large \frac{V}{\sqrt{n}} } t_{n-1,~\frac{\alpha}{2}} } \right\}

3.1.3. 母分散  {\sigma}^2 の検定

    H_0: \mu = \mu_0 の下で、

       {\large \frac{(n-1){{V}^{2}}}{{{\sigma}_0}^2} } ~ {\sim} ~ \chi_{n-1}^{2}

(c) 両側検定の帰無仮説  H_0: {\sigma}^2 = {\sigma_0}^2有意水準  \alpha の棄却域

    R=\left\{ \mathbf{X}\in\mathcal{X} ~{\large |}~{\large \frac{(n-1){{V}^2}}{{{\sigma}_0}^2} } \lt {\chi_{n-1,~1-{\frac{\alpha}{2}}}^{2}}, \  or \quad {\chi_{n-1,~1-{\frac{\alpha}{2}}}^{2}} \lt {\large \frac{(n-1){{V}^2}}{{{\sigma}_0}^2} } \right\}

※ 母分散  {\sigma}^2 の信頼係数  1-\alpha の信頼区間

    C(\mathbf{X})=\left\{ {{\sigma}^2} ~{\large |}~{\large \frac{(n-1){{V}^2}}{ \chi_{n-1,~{\frac{\alpha}{2}}}^2 }} \leq {{\sigma}^2} \leq {\large \frac{(n-1){{V}^2}}{ \chi_{n-1,~1-{\frac{\alpha}{2}}}^2 }}  \right\}

3.2 2標本の正規母集団(母分散が等しい)

  X_1, \ldots, X_m ~~~ i.i.d. ~{\sim}~~ N( \mu_1,~{{\sigma}^2}) とする。
  Y_1, \ldots, Y_n ~~~ i.i.d. ~{\sim}~~ N( \mu_2,~{{\sigma}^2}) とする。

 また、標本をまとめて、
     \mathbf{X}~=~\left( X_1, \ldots, X_m \right) ,
     \mathbf{Y}~=~\left( Y_1, \ldots, Y_n \right)
 とおく。

  •  \mathbf{X}の標本平均:  \overline{X}~=~{\large \frac{1}{m} } \sum_{i=1}^{m} X_i

  •  \mathbf{Y}の標本平均:  \overline{Y}~=~{\large \frac{1}{n} } \sum_{i=1}^{n} Y_i

 以下のように、母平均  \mu と母分散  {\sigma}^2 に関する仮説検定を考える。

2標本における, 母平均  \mu_1,~\mu_2 についての仮説検定

  (a) 母平均  \mu_1,~\mu_2 の同等性についての両側検定 
                \begin{cases}
                    \text{帰無仮説} ~ H_0: \mu_1 = \mu_2 \\
                    \text{対立仮説} ~ H_1: \mu_1 \neq \mu_2
                \end{cases}

  (b) 母平均  \mu_1,~\mu_2 の同等性についての片側検定 
                \begin{cases}
                    \text{帰無仮説} ~ H_0: \mu_1 = \mu_2 \\
                    \text{対立仮説} ~ H_1: \mu_1 > \mu_2
                \end{cases}

3.2.1 母平均  \mu_1,~\mu_2 の同等性の検定(母分散  {{\sigma}^2} が既知)

    H_0: \mu_1 = \mu_2 の下で、中心極限定理(CLT)より、

       {\large \frac{\overline{X}~-~\overline{Y}}{ \sqrt{\frac{m+n}{mn} {{\sigma}^2}} } }~ \overset{d}{\longrightarrow} ~N(0, 1)

(a) 両側検定の帰無仮説  H_0: \mu_1 = \mu_2有意水準  \alpha の棄却域

    R=\left\{ \mathbf{X}\in\mathcal{X} ~{\large |}~{\large \sqrt{\frac{mn}{m+n}}  \frac{ | \overline{X}~-~\overline{Y} | }{\sigma}}  > {Z_{\frac{\alpha}{2}}} \right\}

(b) 片側検定の帰無仮説  H_0: \mu_1 = \mu_2有意水準  \alpha の棄却域

    R=\left\{ \mathbf{X}\in\mathcal{X} ~{\large |}~{\large \sqrt{\frac{mn}{m+n}}  \frac{ \overline{X}~-~\overline{Y} }{\sigma}}  > {Z_{\alpha}} \right\}

※ 母平均の差  \mu_1 - \mu_2 の信頼係数  1-\alpha の信頼区間

    C(\mathbf{X})=\left\{ \mu_1 - \mu_2 ~{\large |}~ {(\overline{X} - \overline{Y})-{\sigma}{\large \sqrt{\frac{m+n}{mn}}}}{Z_{\frac{\alpha}{2}}} \lt  {\mu_1 - \mu_2}  \lt {(\overline{X} - \overline{Y})+{\sigma}{\large \sqrt{\frac{m+n}{mn}}}}{Z_{\frac{\alpha}{2}}}  \right\}

3.2.2 母平均  \mu_1,~\mu_2 の同等性の検定(母分散  {{\sigma}^2} が未知) "t検定"

   標本から(2標本に共通する)母分散を推定した値  {{\hat{\sigma}}^2} を以下のように定義する。

      {{\hat{\sigma}}^2} := {\large \frac{1}{m+n-2}} \left\{  {\sum_{i=1}^{m} {\left( X_i - \overline{X} \right) }^2}  +  {\sum_{j=1}^{n} {\left( Y_j - \overline{Y} \right) }^2} \right\}

    H_0: \mu_1 = \mu_2 の下で、

       {\large \frac{\overline{X}~-~\overline{Y}}{ \sqrt{\frac{m+n}{mn} {{\hat{\sigma}}^2}} } }~ {\sim} ~{t_{m+n-2}}

(a) 両側検定の帰無仮説  H_0: \mu_1 = \mu_2有意水準  \alpha の棄却域

    R=\left\{ \mathbf{X}\in\mathcal{X} ~{\large |}~{\large \sqrt{\frac{mn}{m+n}}  \frac{ | \overline{X}~-~\overline{Y} | }{\sigma}}  > {t_{{m+n-2},~ \frac{\alpha}{2}}} \right\}

(b) 片側検定の帰無仮説  H_0: \mu_1 = \mu_2有意水準  \alpha の棄却域

    R=\left\{ \mathbf{X}\in\mathcal{X} ~{\large |}~{\large \sqrt{\frac{mn}{m+n}}  \frac{ ( \overline{X}~-~\overline{Y} ) }{\sigma}}  > {t_{{m+n-2},~ \alpha}} \right\}

※ 母平均の差  \mu_1 - \mu_2 の信頼係数  1-\alpha の信頼区間

    C(\mathbf{X})=\left\{ \mu_1 - \mu_2 ~{\large |}~ {(\overline{X} - \overline{Y})-{\sigma}{\large \sqrt{\frac{m+n}{mn}}}}{t_{m+n-2,~\frac{\alpha}{2}}} \lt  {\mu_1 - \mu_2}  \lt {(\overline{X} - \overline{Y})+{\sigma}{\large \sqrt{\frac{m+n}{mn}}}}{t_{m+n-2,~\frac{\alpha}{2}}}  \right\}

3.3 2標本の正規母集団(母分散が等しくない)

  X_1, \ldots, X_m ~~~ i.i.d. ~{\sim}~~ N( \mu_1,~{{\sigma_1}^2}) とする。
  Y_1, \ldots, Y_n ~~~ i.i.d. ~{\sim}~~ N( \mu_2,~{{\sigma_2}^2}) とする。

 また、標本をまとめて、
     \mathbf{X}~=~\left( X_1, \ldots, X_m \right) ,
     \mathbf{Y}~=~\left( Y_1, \ldots, Y_n \right)
 とおく。

  •  \mathbf{X}の標本平均:  \overline{X}~=~{\large \frac{1}{m} } \sum_{i=1}^{m} X_i

  •  \mathbf{Y}の標本平均:  \overline{Y}~=~{\large \frac{1}{n} } \sum_{i=1}^{n} Y_i

  •  \mathbf{X}の標本分散:  {V_{1}^{2}}~=~{\large \frac{1}{m-1} } \sum_{i=1}^{m} {\left( X_i - \overline{X} \right) }^2

  •  \mathbf{Y}の標本分散:  {V_{2}^{2}}~=~{\large \frac{1}{n-1} } \sum_{i=1}^{n} {\left( Y_i - \overline{Y} \right) }^2

 以下のように、母平均  \mu と母分散  {\sigma}^2 に関する仮説検定を考える。

2標本における, 母平均  \mu と母分散  {\sigma}^2 についての仮説検定

  (a) 母平均  \mu_1,~\mu_2 の同等性についての両側検定 
                \begin{cases}
                    \text{帰無仮説} ~ H_0: \mu_1 = \mu_2 \\
                    \text{対立仮説} ~ H_1: \mu_1 \neq \mu_2
                \end{cases}

  (b) 母平均  \mu_1,~\mu_2 の同等性についての片側検定 
                \begin{cases}
                    \text{帰無仮説} ~ H_0: \mu_1 = \mu_2 \\
                    \text{対立仮説} ~ H_1: \mu_1 \gt \mu_2
                \end{cases}

  (c) 母分散  {\sigma_1}^2,~{\sigma_2}^2 の同等性についての片側検定 
                \begin{cases}
                    \text{帰無仮説} ~ H_0: {\sigma_1}^2 = {\sigma_2}^2 \\
                    \text{対立仮説} ~ H_1: {\sigma_1}^2 \neq {\sigma_2}^2
                \end{cases}

3.3.1 母平均  \mu_1,~\mu_2 の同等性の検定(母分散  {{\sigma_1}^2},~{{\sigma_2}^2} が既知)

    H_0: \mu_1 = \mu_2 の下で、中心極限定理(CLT)より、

       {\large \frac{\overline{X}~-~\overline{Y}}{ \sqrt{\frac{{\sigma_1}^2}{m} + \frac{{\sigma_2}^2}{n}} } }~ \overset{d}{\longrightarrow} ~N(0, 1)

(a) 両側検定の帰無仮説  H_0: \mu_1 = \mu_2 の棄却域

    R=\left\{ \mathbf{X}\in\mathcal{X} ~{\large |}~{\large \frac{ | \overline{X}~-~\overline{Y} | }{  \sqrt{\frac{{\sigma_1}^2}{m} + \frac{{\sigma_2}^2}{n}}  }}  > {Z_{ \frac{\alpha}{2}} } \right\}

(b) 片側検定の帰無仮説  H_0: \mu_1 = \mu_2有意水準  \alpha の棄却域

    R=\left\{ \mathbf{X}\in\mathcal{X} ~{\large |}~{\large \frac{ ( \overline{X}~-~\overline{Y} ) }{  \sqrt{\frac{{\sigma_1}^2}{m} + \frac{{\sigma_2}^2}{n}}  }}  > {Z_{ \alpha }} \right\}

※ 母平均の差  \mu_1 - \mu_2 の信頼係数  1-\alpha の信頼区間

    C(\mathbf{X})=\left\{ \mu_1 - \mu_2 ~{\large |}~ {(\overline{X} - \overline{Y})-{\large \sqrt{\frac{{\sigma_1}^2}{m} {\small +} \frac{{\sigma_2}^2}{n}}}}{Z_{\frac{\alpha}{2}}} \lt  {\mu_1 - \mu_2}  \lt {(\overline{X} - \overline{Y})+{\large \sqrt{\frac{{\sigma_1}^2}{m} {\small +} \frac{{\sigma_2}^2}{n}}}}{Z_{\frac{\alpha}{2}}}  \right\}

3.3.2 母平均  \mu_1,~\mu_2 の同等性の検定(母分散  {{\sigma_1}^2},~{{\sigma_2}^2} が未知)

    H_0: \mu_1 = \mu_2 の下で、Welch's test(ウェルチの検定)を用いると、

       {\large \frac{\overline{X}~-~\overline{Y}}{ \sqrt{\frac{{V_1}^2}{m} + \frac{{V_2}^2}{n}} } }~ \underset{近似分布}{\longrightarrow} ~t_f

   ただし、 t 分布の自由度  f は以下のように求める。

       f:={\large \frac{{( \frac{{V_1}^2}{m} + \frac{{V_2}^2}{n} )}^2}{ \frac{{V}_{2}^{4}}{m(m-1)}+\frac{{V}_{2}^{4}}{n(n-1)} }   }

(a) 両側検定の帰無仮説  H_0: \mu_1 = \mu_2有意水準  \alpha の棄却域

    R=\left\{ \mathbf{X}\in\mathcal{X} ~{\large \mid}~{\large \frac{ | \overline{X}~-~\overline{Y} | }{  \sqrt{\frac{{V_1}^2}{m} + \frac{{V_2}^2}{n}}  }}  > {t_{f,~ \frac{\alpha}{2}} } \right\}

(b) 片側検定の帰無仮説  H_0: \mu_1 = \mu_2有意水準  \alpha の棄却域

    R=\left\{ \mathbf{X}\in\mathcal{X} ~{\large \mid}~{\large \frac{ ( \overline{X}~-~\overline{Y} ) }{  \sqrt{\frac{{V_1}^2}{m} + \frac{{V_2}^2}{n}}  }}  > {t_{f,~ \alpha} } \right\}

※ 母平均の差  \mu_1 - \mu_2 の信頼係数  1-\alpha の信頼区間

    C(\mathbf{X})=\left\{ \mu_1 - \mu_2 ~{\large \mid}~ {(\overline{X} - \overline{Y})-{\large \sqrt{\frac{{V_1}^2}{m} {\small +} \frac{{V_2}^2}{n}}}}{t_{f,~\frac{\alpha}{2}}} \lt  {\mu_1 - \mu_2}  \lt {(\overline{X} - \overline{Y})+{\large \sqrt{\frac{{V_1}^2}{m} {\small +} \frac{{V_2}^2}{n}}}}{t_{f,~ \frac{\alpha}{2}}}  \right\}

3.3.3 母分散  {\sigma_1}^2,~{\sigma_2}^2 の同等性の検定 "F検定"

    H_0: {\sigma_1}^2={\sigma_2}^2 の下で、

       {\large \frac{ {V_1}^2 ~/~ {\sigma_1}^2 }{ {V_2}^2 ~/~ {\sigma_2}^2 }  } = \frac{{V_1}^2}{{V_2}^2} ~ {\sim} ~F_{m-1,~n-1}

(c) 両側検定の帰無仮説  H_0: {\sigma_1}^2 = {\sigma_2}^2有意水準  \alpha の棄却域

    R=\left\{  \mathbf{X}\in\mathcal{X} ~{\large \mid}~ {\large \frac{{V_1}^2}{{V_2}^2}} \lt F_{m-1,~n-1,~1-\frac{\alpha}{2}} ,\ or \quad F_{m-1,~n-1,~1-\frac{\alpha}{2}} \lt {\large \frac{{V_1}^2}{{V_2}^2}}   \right\}

※ 母分散の比  {\large \frac{{\sigma_1}^2}{{\sigma_2}^2}} の信頼係数  1-\alpha の信頼区間

    C(\mathbf{X})=\left\{ {\large \frac{{\sigma_1}^2}{{\sigma_2}^2}} ~{\large \mid}~ {\frac{{V_1}^2}{{V_2}^2}} \frac{1}{F_{m-1,~n-1,~\frac{\alpha}{2}}} \leq {\large \frac{{\sigma_1}^2}{{\sigma_2}^2}} \leq {\frac{{V_1}^2}{{V_2}^2}} \frac{1}{F_{m-1,~n-1,~1-\frac{\alpha}{2}}}   \right\}

参考

現代数理統計学の基礎 (共立講座 数学の魅力)

現代数理統計学の基礎 (共立講座 数学の魅力)

統計学入門 (基礎統計学?)

統計学入門 (基礎統計学?)

*1:定義より、事象に対して、確率変数を定めることができる。厳密には、可測集合に含まれる事象に対して確率を定義し、確率に対して確率変数を定義する。

*2:「実現値」の概念は伝統的な数理統計学で扱うもので、ベイズ的な枠組みでは、あまり気にしない。例えば、以下のような批判もある。https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/47712/1/ES_61(3)_001.pdf

*3:ベイズ統計学では、確率変数として扱う。